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「“軽”団連」と揶揄…経団連、存在意義の低下が深刻、消去法で選出された十倉・新会長
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経団連会館(「Wikipedia」より)

「財界総理」と呼ばれる経団連中西宏明会長(日立製作所会長、75)が、リンパ腫が再発したため6月1日の定時総会で交代した。中西氏は日立でも相談役に退いた。経団連会長が病気で任期途中で退任するのは初めて。新しい会長には住友化学の十倉雅和会長(70)が就任した。中西氏の残りの任期、1年をやるのではなく、新たに2期4年の任期である。

 中西氏は18年5月に経団連会長の椅子に座った。リンパ腫を19年6月に公表。復帰したが、昨年7月に再発がわかった。入院して抗がん剤治療を続けながら、テレビ会議システムなどを使って職務を続けてきたが、容体が悪化。4月、久保田政一事務総長に退任の意向を伝えた。

 新しい会長を選ぶ際に基準がある。副会長経験者、出身企業で社長または会長、製造業出身の3つだ。今回もこれが準用された。“ポスト中西”に該当するのは5人だった。現職の副会長では日本製鉄の進藤孝生会長(71)とコマツの大橋徹二会長(67)。副会長OBは三菱重工業の宮永俊一会長(73)、トヨタ自動車の内山田竹志会長(74)、そして十倉氏だった。

「デジタル化と環境問題に造詣が深い」という理由で中西氏が推薦した。名誉会長(歴代の会長経験者)の了承を取り付け、十倉氏の次期会長が決まった。十倉雅和氏は下馬評にものぼらなかったサプライズ人事だが、伏線はあった。

「日本製鉄の進藤氏は4年前にも会長候補で中西さんと競い合った。だから、(中西さんに)進藤さんを選ぶという選択肢はなかったのだろう。製造業の現役の副会長から選ぶとなると、コマツしかいない。しかし、大橋さんは(経団連会長としては)若い。かつドライな理論派で政府の委員等には適任だが、他の企業のうるさ方のトップに頭を下げてまでして意見をまとめるタイプではない」(経団連の元副会長)

「製造業以外に候補を広げようとしたが、銀行、総合商社とも業界内の競争が激しく、座り具合が悪かった」(現役の副会長)

「消去法で十倉さんがなったのだろう。真面目で敵は少ない」(別の副会長)。

 日立の幹部は別の見方をする。

「(中西氏と十倉氏は)価値観が一致している。かつて同時期に経団連の副会長を務めたし、16年に政府の総合科学技術・イノベーション会議の議員を、中西さんは十倉さんにバトンタッチしている。何も言わなくても中西路線は踏襲される」

 十倉・新会長は「闘病しながらいろいろ発信した中西会長の不屈の精神に敬意を表したい」と前任者を称えた。2人はウマが合うのである。もし、中西氏が22年春の任期を全うしていれば、「十倉氏の出番はなかった」(有力会員企業のトップ)。6月1日付でパナソニックの津賀一宏社長(64)、日本製鉄の橋本英二社長(65)など複数の有力な製造業のトップが副会長になったからである。

 副会長就任が内定していた住友化学の岩田圭一社長は、十倉氏が経団連会長になったため辞退した。中西氏が最後の年に崩してしまった「同一企業から会長、副会長は出さない」との不文律は守られるべきものだった。岩田氏の辞退は当然である。

 10年前に住友化学の社長になった十倉氏は「正義、大義、仁義」を好きな言葉として挙げた。「(中西氏からの)要請を受けることに義があると判断した。義を貫きたい」として、緊急登板することを決断した。十倉氏の「義」とは何なのか。中西氏の負託に応えたいということなのか。

情報発言力の強化も喫緊の課題

 住友化学から経団連会長が出るのは、故・米倉弘昌氏(10年5月~14年6月)に続いて2人目。米倉氏の秘蔵っ子として経営企画などの要職を歴任。2003年、三井化学との経営統合では交渉の最前線に立った。統合は結局、白紙撤回となったが、米倉氏は十倉氏を重用し続けた。米倉氏が経団連会長を退いたのに伴い、15年6月から4年間、経団連副会長を務め、19年5月から審議員会副議長に横滑りしていた。

 米倉氏は安倍晋三・前首相の不興を買ったことで有名になったこと以外に、経団連会長としてこれといった業績はない。「“無鉄砲”なアベノミクス」を批判され、安倍氏は机を叩いて激高したと伝えられている。

 政権に復帰した安倍氏は、経団連会長の指定席だった経済財政諮問会議の民間議員から米倉氏を外し、冷遇し続けた。その後、経団連会長になった榊原定征・東レ元会長(78)は安倍政権との距離を縮めるべく四苦八苦した。政権に近づきすぎた経団連を、中西氏は軌道修正しようとしたが、結局、病気で果たせなかった。

 十倉会長は「榊原定征前会長、中西会長が築いてきた政権との良好な関係を維持していきたい」と抱負を述べた。重要課題に浮上した環境対策では、炭素に価格を付ける政策の是非で産業界の意見が大きく割れている。中西氏は総論で賛成したが、経団連幹部が政府の会議で慎重な姿勢を示すなど一枚岩ではない。

 世界的に脱炭素社会への取り組みが加速するなか、産業界をまとめて、政府に提言できるのか。十倉会長のリーダーシップが試される。中西路線の継承を前面に出し、「自由民主主義、法の支配、人格を普遍的な価値として持つスタンスは微動だにしない」と言い切ったが、住友化学にとって中国市場は大切だ。インタビューでも十倉氏は「安定した日中関係の構築は重要」と付言した。“米中経済戦争”が激化するなかで、ブレないカジ取りを期待できるのだろうか。

 経団連のアイデンティティは低下の一途で「軽団連」などと揶揄されている。情報発言力の強化も喫緊の課題である。

(文=編集部)

【日時】2021年06月23日 05:30
【提供】Business Journal
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